家族性大腸腺腫症は、がんを抑制するAPC遺伝子の病的な変異により、大腸に腺腫(ポリープの一種)が多発する病気です。大腸腺腫が100個以上あった場合、家族性大腸腺腫瘍と診断されます。
腺腫は良性であるものの、一定以上大きくなるとがん化することがわかっています。家族性大腸腺腫症では、10〜20歳頃に腺腫ができ始め、20代から大腸がんの発症がみられ、放置すれば60代にはほぼ全員が大腸がんを発症するとされています。これまでこうした大腸がんの発症を防ぐには、20代で大腸をすべて摘出する治療法しかなく、その後の患者さんのQOL(生活の質)の低下が問題となっていました。
この先進医療は、家族性大腸腺腫症で大腸切除術を受けておらず(虫垂切除術を除く)、5mm以下の腺腫を内視鏡ですべて取り除いた患者さんに対し、低用量(少量)のアスピリンを2年間にわたって毎日経口投与する治療法です。低用量アスピリンは、抗血栓剤、抗凝固剤としての利用が認められていますが、抗炎症、抗酸化、細胞の分化や増殖を抑制する作用があると考えられ、家族性大腸腺腫症に対しては、短期間(8ヵ月)の投与で大腸腺腫の増大リスクを6割減少させる効果がすでに確認されています。
この先進医療で家族性大腸腺腫症における治療の選択肢が増え、腺腫の増大化を抑えることにより大腸がんの発症を防ぐ、就職や出産など患者さんのライフステージに合わせて大腸切除の手術を行うことができるなどが期待されます。 |