この先進医療の適応症は、頭頸部の喉頭(気管につながるのど)や咽頭(食道につながるのど)の粘膜の扁平上皮組織にできるがんのうち、ステージII期、III期、IV期といった、ある程度がんが大きくなっていて遠隔転移がないケースです。
「p16陽性」とは、がん細胞にp16というたんぱく質(HPV:ヒトパピローマウイルス感染に関連するたんぱく質)が現れたたタイプのことをいいます。
この適応症に対する現在の標準治療は、手術または化学療法(抗がん薬による治療)と放射線治療を併用した治療です。放射線治療は、コンピュータ制御で行うX線による強度変調放射線治療(IMRT)が標準照射となっています。
喉頭がんや咽頭がんは、頭頸部がんのなかでも咀嚼(そしゃく:食べ物をかみ砕くこと)や嚥下(えんげ:食べ物を飲み下すこと)、味覚や発声などにかかわる部位にできるため、通常のX線ではがん周囲の部位にもダメージを与え、術後の生活に大きな影響が出ることが考えられます。この影響を最小限とするため、前述したIMRTという放射線治療によって、正常組織への照射線量を抑えつつ、がんを叩くために必要な高線量の放射線を照射できる仕組みが用いられています。とは言え、IMRTでも、治療中や治療後の口腔乾燥や嚥下障害といった有害事象が起こることがありました。
この先進医療では、シスプラチンを用いた化学療法と、放射線に陽子線を用いた強度変調陽子線治療(IMPT)を併用します。IMRTの照射技術の利点と、線量分布を腫瘍に集中できる陽子線の利点を併せもった技術といえます。
この先進医療により、口腔乾燥や嚥下障害、味覚障害といった患者のQOL(生活の質)の低下を招く有害事象が減り、治療の有効性と安全性が高まることが期待されます。 |