血管は、血流に接している「内膜」、最も外側の「外膜」、その間の「中膜」の3層構造になっています。心臓から全身に血液を送り届ける大動脈の内膜に亀裂が生じて血液が中膜に入り込むと、血管壁を縦方向に裂いていきます。これが大動脈解離です。本来、血液が通る部分である「真腔(しんくう)」に対して、中膜が裂けてできた血液が通る部分は「偽腔(ぎくう)」と呼ばれます。
大動脈解離が起こると、血液の圧力に耐えきれずに外膜が膨らんで大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)というこぶができて破裂することがあるほか、偽腔が真腔を圧迫して血流が悪くなり、脳梗塞や心筋梗塞などが生じて命にかかわることがあります。
大動脈解離の主な治療法には、亀裂ができた箇所の血管を切除して人工血管に入れ替える人工血管置換術や、亀裂ができた箇所に筒状の金網であるステントグラフトを留置して亀裂を塞ぐステントグラフト内挿術(TEVAR)があります。
手術後に大動脈から枝分かれした細い血管の内膜に亀裂が残っており、その亀裂から血液が流れ込んで偽腔が拡大することがあります。このような内膜の亀裂に対してはTEVARを行うのが困難なことが多く、人工血管置換術が必要な場合がありますが、胸部や腹部を大きく切開して行う手術のため、患者さんの体にかかる負担が大きくなります。
一方、この先進医療では、通常のTEVARで用いるより細いステントグラフトを血管内に留置して亀裂を塞ぎます。太ももの付け根を小さく切開し、カテーテルを通してステントグラフトを患部まで運ぶので、体への負担は小さくて済みます。また、亀裂を塞ぐことで偽腔への血液の流れを遮断して偽腔の拡大を防ぎ、大動脈瘤を縮小させる効果が期待されます。 |