筋ジストロフィーは筋肉の変性・壊死(えし)から全身の筋力が低下して、さまざまな機能障害が起こる病気の総称であり、国の難病に指定されています。筋ジストロフィーの患者さんは、骨格筋や心筋の細胞膜にTRPV2というたんぱく質が多く存在していることが確認されています。TRPV2にはカルシウムを取り込む働きがあり、細胞内へカルシウムの流入が促されて心筋の細胞が変性し、心臓の働きが低下する心不全が進行しやすくなります。
心不全のうち、慢性心不全の治療には主に、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬やARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)、β遮断薬といった心筋を保護するための薬剤が使用されており、一定の効果が得られています。一方で、進行した心不全にはまだ有効な治療法がないのが現状です。
この先進医療は、心不全を発症した13歳以上の筋ジストロフィーの患者さんに対して、抗アレルギー薬のトラニラストを経口投与する療法です。これまでの研究で、トラニラストにTRPV2の働きを妨げる作用があることが示されています。カルシウムの細胞内への流入を食い止めて心筋の細胞の変性を抑えることで、心機能の改善が期待されます。 |