肺がんの治療薬の一つに、分子標的薬があります。がん細胞だけを攻撃し、増殖を抑える力が強く、副作用が少ないのが特徴です。この分子標的薬は、攻撃するがん細胞の遺伝子変異の種類が決まっています。治療を開始する前に、患者さんのがん細胞の遺伝子変異の種類を調べるため、がん細胞の遺伝子検査を行う必要があります。
現在、薬事承認されている肺がんの遺伝子検査薬は、組織診検体が対象となっています。組織診は、主に、体の表面から肺に針を刺してがん組織を採取する経皮的針生検が行われますが、肺に穴が開き空気が漏れる気胸などの合併症が起こることがあります。そのため、肺がんと診断されても、患者さんの全身状態などによっては経皮的針生検を行うことができず、遺伝子検査ができないまま治療を開始せざるを得ないケースもあります。
一方、この先進医療では、細胞診検体を用いて遺伝子検査を行います。気管支専門の内視鏡(気管支鏡)を鼻や口から入れて気管支まで到達させ、がん細胞を採取するため、経皮的針生検に比べて患者さんの体にかかる負担は軽減されます。そのうえ、細胞診検体は組織診検体より良質なDNAやRNA(いずれも遺伝子)が採取でき、より高精度の検査が可能になるとされています。
この先進医療により、より多くの肺がん患者さんが遺伝子検査を受けられるようになり、一人ひとりに適した治療薬の選択が可能になることが期待されます。 |