膵臓がんは、治癒の目安となる5年生存率が5%以下とされる、治療が難しいがんです。国内で膵臓がんと診断された場合の70%が、すでにがんが進行していたために切除手術ができない状態であり、多くの患者さんのその後の生存期間は6〜12カ月とされています。こうした切除ができない進行した膵臓がんは、膵臓がん全体の約35%を占めています。そのうち半数の患者さんは、がんがほかの離れた臓器には転移していないものの、腹膜転移しているといわれています。
腹膜は膵臓をはじめ胃や腸などの臓器を覆っており、袋状になっています。腹膜転移があると、腹痛のほか、おなかが張る、腹水がたまる、腸が詰まるといった症状により、QOL(生活の質)が低下して薬物治療を続けることが困難になります。
この先進医療は、抗がん薬であるS-1を内服投与し、同じく抗がん薬のパクリタキセルを点滴で静脈に注入するだけでなく、腹部に挿入したチューブから腹腔(ふくくう・おなかの中)にも直接、投与する療法です。腹腔に薬剤を注入すれば袋状の腹膜全体に薬剤を行き渡らせることができます。腹膜転移の進行を抑え、腹水などの症状が緩和されて、薬物治療の継続が可能になることで、延命効果の改善が期待されます。 |